第2期 第8回医鍼連携研修を下記要領にて開催しました。
日時:2020年1月19日(日) 受付開始 9:10
場所:東京大学医学部附属病院 中央診療棟2 7階大会議室
カリキュラム
【臨床各論共通テーマ】 COMMON DISEASE への対応を確実に身につける 1月 消化器疾患(下痢・便秘)
【東洋医学的な考え方について系統的な講義】 中医鍼灸 : 診断学3 / 経絡治療 : 69難本治穴
※ 現代医学 : 北里大学東洋医学総合研究所 漢方鍼灸治療センター副部長 星野卓之先生
現代医学
CTの普及や解析技術の進歩に伴い、医師の仕事が器質的な疾患から(画像に映らない)機能的な疾患への対応にシフトしてきているという医療現場のお話から始まりました。
星野先生は医史学研究にも携わっていることから、導入部では消化器について記された古典を引用した説明があり、鍼灸師が学んだ東洋医学の知識と繋がって理解が深まりました。
消化器の概要、解剖、腹痛の種類、便秘、下痢…、とポイントを押さえながら講義が進む中で、潰瘍は縮んで治るために治癒後は食が細くなる、腸内細菌は生後1週間でほぼ定着してその後は他の細菌が住みつかないように免疫が見張っている、少量誤嚥を防ぐための食べ方の工夫とむせた時の咳払いのコツ、さらに、全体を通じてされた発生学的な話等々、数々のトピックスが印象に残りました。
尿や血液の検査、線虫がん検査などの簡易な方法でがんが発見できるようになってきている現在、臨床家の醍醐味は機能性の疾患を抱える患者に対して、心の問題も含めた全身と関わっていくことではないかというお話で講義が終わりました。
現代鍼灸
消化管の運動の基礎研究「消化管機能に対する鍼灸治療のアプローチは自律神経系を介した体性―内臓反射により、四肢末梢部位への刺激は消化管機能を亢進させ、体幹部への刺激は抑制する」について、日本鍼灸のエポックである薬害スモン(鍼灸治療が公費適応となった唯一の大規模症例集積疾患、末端への刺激が全身に及ぼす効果研究の端緒になった)に触れながら紹介がされました。
ストレス病とされ有効な治療法が確立していないIBS(過敏性腸症候群)について、定義と分類、発生機序と病態、鍼灸における治療機序について詳しく説明がありました。
便秘については、排便のメカニズムと病態把握についての解説後、「痙攣性便秘」「弛緩性便秘」「直腸性便秘」いずれの場合も鍼灸治療で症状が改善されるという臨床研究が多数紹介されました。キーワードは自律神経系の調整でした。
実技は骨盤内臓神経に直接関与する中髎穴に対する刺鍼で、2つ刺鍼法の指導を受け、受講生同士の刺鍼で響きの感覚を確認しました。
中医鍼灸
各論テーマの「下痢・便秘」と重なることから、総論の腹診からスタートしました。腹診は六腑(及び奇恒の腑)の診察に用い、問診で便秘や下痢等の消化器症状の訴えがあった場合に舌診、脈診の後に行うということで、触る部位、触り方と反応点の捉え方について解説がありました。治療には募穴と下合穴を使う「募合配穴法」を用います。
続いて下腿の切診。舌診、脈診は体の上部の状態を反映するので、体の下部状態を診る下腿の切診は全身状態を把握するために重要とのこと、ポイントは次の5つです。①冷え②指(拇趾の爪肉で肝脾のバランス)③太谿(浮腫)④三陰交(下腹部)④胃経ライン(胃腸)。
消化器疾患の中医学的なメカニズムでは、「脾胃を中心としつつ、腎が脾を温め、肝が脾をコントロールする」という説明がありました。
実技では各治療穴についての説明後、一般的に使われる局所穴(中肝、天枢、左承満(噴門部)、右梁門(十二指腸部))と循経穴(胃の上逆の「足三里と内関」、消化器全般に万能な奇経の組み合わせ「内関と公孫」)への刺鍼を行いました。
経絡治療
総論は69難本治穴がテーマでした。まず69難の解釈を復習し、そこから基本四証の本治穴を「自経と母経の自穴と母穴」という解釈に従い理論的に導き出しました。例えば腎(肺)虚証の場合は「腎経と肺経の水穴と金穴」となります。
また、本治の効果を高める「全身調整穴」についても紹介がありました。全身調整穴はそれぞれの穴の意義を理解することが大切で、その目的に応じて、陥下もしくは硬結に取穴しなくてはならないそうです。
各論は自律神経失調症状として便通障害。経絡治療では、「交感神経系が亢進≒肝怒=緊脈」と考えますが、神経性胃腸症状の場合、脾にも緊脈が現れます。治療効果を長持ちさせるためには、本治(肝経脾経の水穴に補)を効かせることが重要とのことでした。
実技は腹診から。下痢と痙攣性便秘は下行結腸の緊張として現れる、弛緩性便秘は運動力の低下により下行結腸が側腹部に流れる、自律神経系の胃腸症状は背部肋骨弓上下にも緊張として現れる等々。脈を確認しながら、ポイントとされた緊張部分に刺鍼を行いました。