『医道の日本』2018年3月号 医鍼連携 特別座談会

医鍼連携のカギは「鍼灸の見える化」と「共通言語」

『医道の日本』2018年3月号に「医鍼連携のカギは「鍼灸の見える化」と「共通言語」」と題し、本協会講師陣による、医鍼連携および医鍼連携に必要な人材育成をテーマとした座談会記事が掲載されました。

医道の日本社様のご厚意により転載許可をいただきましたので、ここに掲載記事を紹介します。

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特別座談会 医鍼連携のカギは「鍼灸の見える化」と「共通言語」
医療鍼灸協会の人材育成とは
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医鍼連携のカギは「鍼灸の見える化」と「共通言語」

医療鍼灸協会の人材育成とは

患者のニーズの多様化に伴い、医療における多職種連携が進んでいる。

鍼灸師が医療機関と連携する機会は確かに増え始めているが、決して多いとはいえない。今後、この取り組みを広めていくためには、何が必要なのだろうか。

これまでの鍼灸の流派の垣根を越え、医鍼連携を目指す医療鍼灸協会が2016年9月、発足し、2018年5月から研修会を本格的に実施する。同会の取り組みと今後の展望から、医鍼連携のヒントを探る。

現代医学を基礎に、流派の異なる鍼灸を学ぶ

周防(司会) まず、医療鍼灸協会を立ち上げた経緯について、発起人の相澤先生、説明をお願いします。

相澤 数年前から厚生労働省が中心となり、いわゆる「混合診療」についての検討が行われています。現在、先進医療などの一部の分野での検討が進められており、今後ますます「混合診療」の拡大が予想されます。鍼灸治療においても、従来の医師の同意書による連携に留まらず、診療情報提供書などで医療機関とより広く連携することが求められます。実際に、大学病院などが、統合医療として鍼灸治療を積極的に取り入れているケースもあります。

 そこで、鍼灸と医療機関の連携を学ぶ会をつくりたいと考えました。会の構想について、まず相談したのが津田先生でした。津田先生は、西洋医学と東洋医学の双方を活かした医療を実践されています。協会の目指す方向を理解していただき、協会を発足するに至りました。医療機関と連携して治療に当たることができる鍼灸師、病院やクリニックなど医療機関で活躍できる鍼灸師を育成するプログラムをつくり、研修会を開催していくのが、私たちの使命です。研修会は2017年5月から6回のプレ研修会を経て、2018年5月から本格的に始動します。

周防 研修会の特徴を教えてください。

相澤 研修会では、「現代医学」「現代鍼灸」「中医鍼灸」「経絡治療」の4つを柱にして、毎回「頭痛」「腰痛」「婦人科疾患」など、1つのテーマについて講義や実技を行います。今の日本の鍼灸で、評価や治療などの理論が確立されているのが、「現代鍼灸」「中医鍼灸」「経絡治療」の3つではないかと考えています。私は経絡治療をベースに治療をしてきましたが、現代鍼灸との接点はほとんどありませんでした。「現代医学」と「現代鍼灸」以外では、それぞれ接点がなかったのでははいかと思います。同じ鍼灸師でも、情報が共有されない、またはできない状況が続いてきました。まずは鍼灸師同士が流派に関係なく1つのテーマを学び、それぞれがどのような治療をしているかを知り、臨床に役立てることが研修会の目的でもあります。

米国で鍼灸が普及した背景

周防 漢方や鍼灸などの伝統医療や、アロマ療法やヨガなどの補完医療は、海外では代替医療として積極的に病院などに取り入れられている事例もあるようですね。

津田 2017年11月に米国リウマチ学会に参加しました。そこでは代替医療をテーマにしたセミナーが開催されていましたが、日本のリウマチ学会では、まだそういった取り組みはありません。米国の代替医療の利用率は、1990年の実績で33.8%、97年には42%。1年当たりの代替医療における出費総額も300億ドルと、ほぼ標準治療と同等の割合です。

周防 米国で伝統医療などの代替医療が普及したのはなぜでしょうか。

津田 保険制度の違いもあって、米国では医師が積極的に代替医療を取り入れており、この分野の研究や利用率で日本と米国には大きな差があります。これほど米国で伝統医療などの代替医療が普及したのには、もう一つ理由があります。それは、教育水準の高い層が、代替医療を支持していたことです。以前は、代替医療が普及した理由について、「代替療法家が、知識のない患者を騙して代替医療を勧めているのではないか」という解釈が少なからずありました。しかし、実際にはそうではなく、年収の高い層や女性などから高い支持があることが調査によって分かってきました。この事実から米国政府も国を挙げて、積極的に代替医療の科学的調査に乗り出しました。米国国立衛生研究所 (NIH) の外局として、現在は、国立補完統合衛生センター (The National Center for Complementary and Integrative Health : NCCIH) がその役割を担っています。NCCIH のウェブサイトを見ていただければ分かりますが、補完代替医療に関する詳細なエビデンスが多く集積されています。そして、私たち漢方医からすると残念なことですが、実は漢方より鍼灸のエビデンスのほうが多いんです。このように鍼灸の評価は世界的に見ても高まっているといえます。それに日本は追いついていかなければならない立場なのではないでしょうか。

周防 医師から見ると、日本の鍼灸に対してどのような印象がありますか。

津田 私の周りにも鍼灸治療を勉強してみたいと考えている医師がいます。しかし、現代鍼灸、経絡治療、中医鍼灸、それぞれが独自の見解を持っていて、どれを当てにしたらよいのか分からないと、入口の時点で嫌悪感を持ってしまうこともあるようです。信用をつくるという意味でも、当協会の取り組みは、鍼灸のプラットホームを構築する、とても意義のあることだと思います。このプラットホームに新規の医療者を取り込むことができれば、鍼灸の裾野が大きく広がるのではないでしょうか。

相澤 協会を設立する際に粕谷先生から、認定制度のご提案をいただきました。これは、「鍼灸師がどんな勉強をして、どんな治療をしているのかが分からない」「連携はしたいが誰に声をかけたらよいのか」といった鍼灸師以外の医療者の声に応えるものです。現代医学を修めた鍼灸師を認定することで、外部から鍼灸を「見える化」する取り組みです。これは今後検討していきたいと考えています。

周防 鍼灸の各流派の治療を活かしつつ、医師やその他の医療者と連携を図るためのシステム構築が医鍼連携のポイントになりそうですね。

チーム医療を支える3つの能力

周防 相澤先生は、具体的に医鍼連携を実現するためには、どんな能力を育成することが必要であるとお考えですか。

相澤 医鍼連携の実現のためには、3つの能力を養うことが重要だと考えています。1つ目は、現代医学の知識です。患者さんの現状をチーム医療の一員として、正しく認識して、チームで共有することが求められます。そのためには、現代医学の継続的な学習が必要になります。

 2つ目は、カンファレンス力です。チーム医療では、患者の情報を共有し、現状を理解して、今後の治療方針などを検討するためのカンファレンスが行われます。現代医学の知識を活用して、どんな患者に対して鍼灸が適応となるのか、どんな効果を期待することができるのか。医師や看護師などと同じテーブルで患者を理解し、鍼灸の作用機序や期待できる効果、安全性を正しく伝えるための能力といえます。
 そして3つ目は、臨床力です。他の医療者や患者に鍼灸のことを正しく伝えることができても、それに伴った技術がなければ、信頼してもらえません。信頼を得るためには、治療効果を高めるための技術が必要です。以上の3つの能力を養うために当協会では研修会を開催しています。

入口と出口は共通言語で

周防 研修会で「現代鍼灸」を担当している粕谷先生は実際に大学内の医療機関で治療をされています。医療機関で働く鍼灸師には、何が求められるとお考えでしょうか。

粕谷 私は東京大学医学部付属病院に入職して、29年になります。その間、医療機関のなかで、鍼灸師がどういう役割を担えるのかを常に考えてきました。先ほど、相澤先生が医療機関で働くための3つの能力を挙げてくださいました。それに1つ補足すると、評価する能力が重要だと肌で感じています。これは脈診や舌診による評価ではなく、他の医療者にも分かる共通の評価法を用いて、現代医学的に評価することです。共通言語といってよいでしょう。これが鍼灸師の質の担保につながりますし、病院勤務、あるいは開業しながら医鍼連携を図る鍼灸師にとっても重要なことだと思います。

相澤 医鍼連携を進めるにあたり、当協会の研修会では、評価については、現代医学、現代鍼灸の知識をベースにします。経絡治療や中医鍼灸などの伝統鍼灸をベースにしている鍼灸師は現代医学、現代鍼灸への歩み寄りが必要です。

周防 東京大学医学部附属病院の鍼灸の治療は、すべて現代医学に基づいて行われるのでしょうか。

粕谷 当院でも経絡治療をベースに鍼灸治療をする鍼灸師がいます。その場合、電子カルテには、他の医療者でも理解できる共通言語を用いて、まず病態を記入します。そして、治療については、経絡治療の理論に基づいた言語で記入します。これは医師が見ても理解することはできないでしょう。治療後の評価については、共通言語を使い、カルテに記入します。つまり、入口と出口を現代医学による共通言語を用いることをルールにして、その過程はそれぞれの鍼灸師が得意とする手技を用いて治療することができるということです。

学校と臨床をつなぐ

周防 「現代鍼灸」「中医鍼灸」「経絡治療」を並行して学ぶことが、この研修会の特徴かと思います。「中医鍼灸」を担当している横田先生は、学生の時に経絡治療も勉強されたそうですね。

横田 学生の頃には、中医鍼灸との違いが明確には分かりませんでした。しかし、プレ研修会で私が「中医鍼灸」の講義を行い、その後で「経絡治療」の講義を聞くことができ、非常に勉強になっています。

 同じ個展を基にした学問にもかかわらず、細かい部分で解釈が異なり、同じテーブルで学ぶことはこれまでありませんでした。なので、研修会は楽しみであり、不安でもありました。受講者からのアンケートでは、好意的な意見が多かったので、少し安心しています。

周防 横田先生はこのなかで唯一の養成校の教員ですね。先ほど、「臨床力が必要」との話がありましたが、学校でも臨床力を養うことが求められていますね。

横田 2018年度の授業からあん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師学校養成施設のカリキュラムが改正され、特に臨床のカリキュラムが増えています。学校では、理論から実技、そして臨床と段階的に教えていますが、現状ではそれぞれの授業を別々の教員が指導している状況で、各授業レベルにバラつきがあるのが現状ではないでしょうか。また、臨床で活躍する鍼灸師を育てることが目標ではありますが、教員自体の臨床経験が浅い、または臨床現場とのかかわりを持っていない教員もいます。これについては、個人でも、学校単位でも臨床とのつながりをつくる努力が必要です

周防 しかし、学校の命題として、国家試験の合格が掲げられていますね。

横田 そうですね。どうしても、点を取るための授業が必要になることがあります。私の経験上の話ですが、東洋医学の理論はとても興味深く、楽しく勉強していましたが、国家試験の話になってしまうと興味が薄れてしまうことがありました。そんな後ろ向きの考えを改めさせられたのが、東京医療福祉専門学校の鍼灸マッサージ教員養成科で講師を務めていらっしゃる浅川要先生との出会いです。浅川先生は、学校で習ったことを、そのまま臨床にも活かしていました。学校で勉強することは臨床で役に立たないのではなく、勉強したことをどう活かすかが大切だと気づかされました。講師としても研修会で得ることが多く、これらは学校に持ち帰り、教員や学生にもよい形でフィードバックしていきたいと思います。

プレ研修会から見える今後の課題

周防 当協会では、2017年5月からプレ研修会を開催してきました。その際に、受講者にアンケートをお願いしました。アンケートによると、受講者の8割近くの方から、本研修会にも参加したいとの回答がありました。4分野を並行して学べるという新しい取り組みが評価されているようです。5月からの本格実施に向けて、各分野どんなところに力を入れていきますか。

津田 先ほど、粕谷先生がおっしゃっていた通り、共通言語の理解が最も大切です。その基本となるのが解剖学の知識です。プレ研修会では、解剖学については、「よい復習になる」「すでに勉強していて、物足りない」などの意見がありました。鍼灸師も学校や臨床で解剖学はよく勉強しているようですが、医師がどういう視点で解剖学を押さえているのかも知ってもらいたいと考えています。解剖学とともに、教えているのが検査法です。MRI や CT、X 線画像などの見方などももちろん教えますが、まずベッドサイドで行う徒手検査法をマスターすることが重要です。ほかに整形外科的な疾患と内科的な疾患の各論を概説しています。
 また、臨床で遭遇することが多い疾患だけではなく、稀な疾患にも触れ、系統的に講義することを心がけています。これは医師がどのような過程で鑑別診断をして、どのようにレッドフラッグサインを発見するかを頭に入れておいてほしいからです。レッドフラグサインがあれば必ず医師と連携する必要があります。レッドフラグサインに気づくことができ、適切に対応すれば、医師からの信頼も得ることができます。

周防 アンケートを見ると、「医師に連絡したら怒られた」など、医師とのコミュニケーションに苦労している鍼灸師が多いようです。

津田 もちろん医師に問題があるケースもあるかと思いますが、どうすれば円滑にコミュニケーションを取ることができるのか、具体的なコンタクトの方法を含め、講義のなかで提案できればと考えています。

周防 津田先生は鍼灸師と連携することはありますか。

津田 私も実際に鍼灸師と連携しています。その鍼灸師とは顔の見える関係なので、連携がスムーズです。難しいのは、電話や手紙だけのやり取りです。この場合、医師としてもどこまで信頼してよいのか判断に迷うことがあると思います。顔の見えない関係から、いかに連携を図り、関係を築くかは、まさに当協会を設立した主旨でもあります。医師から、「この協会の研修を終了した鍼灸師なら大丈夫」と信頼してもらうことを目指したいですね。医療情報の提供の仕方なども何とかカリキュラムに加えていきたいと思います。

粕谷 「現代鍼灸」では、「現代医学」の講義の内容を踏まえたうえで、レッドフラッグ、またはレッドフラッグに近い状況の患者を、鍼灸師がどのように見分ければよいかを講義で伝えていきます。そして、各テーマに沿って、評価に必要な解剖学的に正しい触診法と、効果を導き出すための刺鍼法を講義と実技で伝えていきます。「この症状のときは、このツボに鍼を打つ」で終わらせるのではなく、その鍼が皮下、筋肉、神経、何を狙って、それぞれどんな効果があるのかを伝えていきます。

横田 「中医鍼灸」の講義では、運動器がテーマの場合は経絡の弁証を、内臓器がテーマの場合は、臓腑の弁証を取り扱っていきます。学校で指導するのは、ツボの取り方とそれに対する刺鍼までです。研修のなかでは、刺鍼の際の角度や深さ、あるいはどの治療が効果的であるかまで触れていきます。

吉田 経絡治療は患者さんの身体の全体を診ることが基本になります。五感を使って診るのが特徴ですが、特に経絡治療は切診、患者さんに実際に触れることで、身体の情報を得ることが大きな特徴です。まずはその流れを、理論とともに実際に体験してもらいながら伝えていきたいと考えています。私たちが共通言語を理解することはもちろん、他の医療者に経絡治療を理解してもらうよい機会でもあると捉えています。

臨床力の維持には継続的な教育が必要

周防 受講者のアンケートでは、「実技のプログラムの充実」を希望する意見が多く見られました。研修会では、それをどのように実現していきますか。

相澤 2年間の研修会で、まず1年目は基礎を固めていきます。東洋療法学校協会編『東洋医学臨床論 はりきゅう編』(医道の日本社)のなかから、重要と考えられるテーマを12項目厳選し、1年目ではそのうち10項目を取り上げます。1回の研修で一つのテーマについて、「現代医学」は講義、「現代鍼灸」「中医鍼灸」「経絡治療」は講義と実技という形式で掘り下げていきます。またそれと並行して、「中医鍼灸」「経絡治療」の「基本的な証の立て方」を学んでいきます。
 2年目は、今後鍼灸治療のニーズ拡大が見込まれるがん治療関係、生活習慣病、脳血管障害、アレルギー、自律神経症状などの疾患について各分野がそれぞれその特徴を活かせるテーマを扱います。例えば、「現代医学」では、画像や血液検査の数値から医師がどんな鑑別診断を下しているのか。実際のカンファレンスでも必要になるような知識を紹介していきます。その他にも、各講師や研修生同士の模擬治療を研修に取り入れ、各分野の特徴を活かした専門性の高い技術を伝えていきたいと考えてます。
 また、医療機関との連携を見据え、医師・鍼灸師それぞれの立場から、診療情報提供書やカルテの書き方を取り上げる予定です。

周防 実習などは予定していますか。

粕谷 2年間の研修を終えた方には、当院や他の病院での見学や実習を予定しています。当院では、実際に多職種が参加するカンファレンスへの参加や、病棟・外来での治療を担当していただきます。その際、当院の医療スタッフが共有している電子カルテの記載を経験してもらいます。

周防 医療は日々進歩していきます。研修会や実習を終えたあとも、継続的な生涯教育が必要ですね。

相澤 将来的には、病院勤務、あるいは開業しながら医鍼連携を図る鍼灸師を対象にして、学会を立ち上げたいと考えています。そこでは、病院や治療院などの臨床で役立つ専門的なセミナーを行い、連携を図るうえでの課題などを参加者で共有し、議論するような場にしていきたいですね。

(写真・構成:医道の日本誌 鈴木貴成)