第2期 第5回医鍼連携研修を下記要領にて開催しました。
日時:2019年10月20日 (日) 受付開始 9:10
場所:東京大学医学部附属病院 入院棟B 1階 第2会議室
カリキュラム:
- 臨床各論共通テーマ…膝痛
- 東洋医学的な考え方についての系統的な講義…中医鍼灸:蔵象(2) / 経絡治療:祖脈診
現代医学
膝関節のキーワードは「前後内外に分けて考える」でした。
身体所見のとり方では、デモを行いながら、触診のポイント(半月板の触診手順、外側側副靭帯と腸脛靭帯の見分け方等々)についてのアドバイスがありました。
須田先生の鉄板メニューであるエコーのデモでは、膝蓋上嚢、膝蓋腱、関節裂隙だけでなく動脈や神経まで実際に確認し、「側副靭帯と半月板の位置関係」「鵞足がイメージより下部にあること」や「総腓骨神経の走行」等の理解を深めることが出来ました。
Red flagでも、急性と慢性、外傷性と内因性に分類した各疾患について、エコー画像による「症状の現場」の解説があり、病院に紹介すべきものを整理しました。
最後に、「膝痛患者の多数を占める変形性関節症は手術以外には効果的な薬物治療がないので、積極的な鍼灸治療に期待している」というエールをいただいて講義が終わりました。
現代鍼灸
テーマは「変形性膝関節症(OA)に対する鍼灸治療(セルフケア指導も含めたアプローチ)」でした。
KL分類gradeⅡ以上の有病者が約2500万人、そのうち有症状者は1/3の約800万人で、ほとんどが自助努力と保存的治療となること、主たる病変は炎症(具体的には滑膜炎)であること、OAに内反変形と屈曲拘縮が伴った場合の症状について等の説明がありました。
鍼治療は、「基本治療」、進行している場合の「補助治療」、さらにはアライメントを考慮して円背等に対する治療も行うとのこと、整形外科的な保存療法で痛みに変化が無かった患者さんが鍼治療で痛みや歩行時間等が有意に改善した調査結果も紹介されました。
さらに、灸治療の併用が効果的であること、運動療法については「強度が弱くても同じ効果が得られる」「重症度に関わらずに有効」という患者指導に有用な情報をいただきました。
最後に、内側型OAで屈曲拘縮と内反変形を併発しているケースを想定した実技を行いました。
中医鍼灸
膝痛は局所治療の他に、三つのアプローチについて説明がありました。
一つ目は、「手足相関。足の病は手で取れ!」=膝痛3点という名称の1穴、二つ目は、「急性で原因不明なものは子午の関係で取れ!」=内膝(脾経)は三焦経の外関、外膝(胃経)は心包経の内関、三つめは「四肢の疾患は体幹の経穴で取れ!」=同側の膏肓。
併せて、横田先生が「肘眼(ひじがん!)」と命名したツボの紹介、下肢の治療は上肢ですることが出来るが上肢の治療は下肢では難しい、子午関係は運動器の治療に汎用性がある等、臨床で応用できる事項を伝授して頂きました。実技は、三つのアプローチポイントと肘眼、局所への刺鍼となりました。
総論は経脈と経筋について、特徴と関係の概略を説明後、それぞれの経脈と経筋の流注のポイントについての詳細な解説があり、その中で、今回の膝痛治療に膏肓を使った理由が解き明かされました。
経絡治療
祖脈診の意義の一つ目は「平脈(健康な脈)は何か、を明らかにする」。平脈を導きだすための観点(浮沈、数遅、大小、滑渋、硬軟、実虚)についての解説がありました。二つ目は「陰陽の偏りで病理を鑑別する」。一番重要なのは浮沈で、浮大実数(熱証)、沈小虚遅(寒証)を6カ所で確認して証を立てます。寒証で証を立てると69難の比較脈診とほぼ同じになるが、熱証の場合には結論は一致しない、という説明がありました。
膝痛は急性期の炎症対応(腫れと健常部の境界に斜刺と糸状灸)の紹介から入りましたが、炎症がある場合は、消炎効果が高いヒアルロン酸の注入を勧めているそうです。
臨床では筋肉や靭帯などの内部組織の痛みが圧倒的に多いので、可動域を広げて運動時痛の軽減を図る運動鍼の治療が重要で、炎症消退後の漿液吸収においても整形外科の治療より優れている、とのことでした。膝の運動鍼については、「完全屈曲ができるまでは立位の運動鍼を避ける」「セルフケアに繋げるため、治療後に可動域の広がりを認識してもらうことが重要」というアドバイスがあり、運動鍼の実技を行いました。